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@虎ノ門協同法律事務所
早稲田大学の転倒予防の課題
  転倒しやすい環境の一例の紹介です。




 早稲田大学26号館(大隈記念タワー)前の広場(おそらく公開空地)の写真です。

 写真の右側は、緩やかな傾斜になっていますが、写真の左側は段差の低い2段の階段になっております。

 しかも、階段の段差は左側の方がやや段差が大きく右側は段差がより小さくなっています。

 これは、あぶない事例の一つです。段差を段差と認識しにくいわずかな高さにしておくと、平面だと思ってしまい、つまずく原因となります。さらに、一つの階段でありながら段差を変えるというのはリスクを高める要因となると考えます。

 「段差がある」と容易に認識できる環境にすべきと考えています。

 改善策としては、段差だと分かるように段差の全面に(現在は一部です)警告テープを貼っておくなどの措置が考えられます。見えにくいと思いますが、現状でも段差の左右の隅には警告テープが貼られています。部分的なのが問題です。

 夜間は特に認識しにくいので、足元ライトなども必要かと思います。

 しかし、根本的には設計が悪いと思います。

 本来あるリスクを分かりにくくするという方法で覆い隠し、リスクを高めるのは避けなければならないと思っています。

 私に判断を求められれば、「通常有すべき安全性に欠ける」という考えですが、皆さんは?
posted by koichi | 23:18 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
日本臨床スポーツ医学会学術集会
 昨日と今日(11/8-9)は日本臨床スポーツ医学会学術大会。

 昨日の教育講演の一コマを担当しました。

 与えられたテーマは「スポーツにおける暴力・ハラスメントの実態と対策」。

 私は、抄録を作成する際に、学術集会会長の川原貴先生に、「日本臨床スポーツ医学会という場だと、スポーツ中の外傷などの方がテーマとしては良いのでは?」と相談したのですが、「ぜひ、『スポーツにおける暴力とハラスメント』で」というお話しだったので、このテーマで話をしました。

 どんな構成にしようかいろいろ考えたのですが、医師の方々は、現場にいる指導者よりは『スポーツにおける暴力とハラスメント』の実態を知っていないだろうと思って、まずは実態を知ってもらうことに重点をおきました。

 指導者向けの講演で紹介している
・ 大分県のある中学校での外部指導員の暴力、
・ 大分県竹田高校の剣道部での熱中症死、
・ 浜松日体大バレーボール部の監督の暴力、
・ 大阪市立桜宮高校バスケットボール部員の自死事件

の紹介に加えて、

・ 米倉加代子(バドミントン)さん、
・ ヨーコゼッターランド(バレーボール)さん、
・ 溝口紀子(柔道)さん、
にも手伝ってもらいました(御本人においでいただいたのではなく、テキスト読み上げソフトでそれぞれの体験を語ってもらいました)。

 座長の川又達朗先生からは、「前半は大変重たい話でしたが・・・」と言われましたが、これは予想通り。

 まずは、現実を知ってもらった上でないと、どうしたら良いかという本気度がでないので、あえて前半に受講者がショックを受ける話をしています。

 後半は、「暴力に頼らない指導」をどう実践するかの紹介。こちらは明るい話です。

 法律家である私が話をするテーマではないんですよね。どう考えても。日本体育協会指導者育成部員の肩書きの方が相応しい話です。法律家らしいスライドは58枚の内2枚だけです。

 現場の指導者に語る時には、法律家として話をしたのでは、

「強くするためには愛のムチは必要→暴力をダメというのは、強い選手・チームを育てたことがない素人の戯言!」

という反論があるので、

「強くするためには暴力は有害、暴力に頼らない指導をしないと強い選手・チームを育てられない」

と語らないと説得できません。

 なので、法律家らしい話になりません。コーチング学とかスポーツ心理の分野の話を法律家である私がせざるをえません。

 教育講演の座長の川又先生の論文(主に脳しんとう)は、仕事の関係上よく拝見していました。

 今回の講演とは関係ないのですが、高名な川又先生とせっかくお会いできる機会でしたので、事前の打合せでは、教育講演の打合せは多少。ほとんどの時間を私が川又先生に山ほどの質問をして、川又先生に教えていただきました。感謝です。

 このような機会を与えたいただいた川原先生と学術集会の実行委員のみなさん、また、JISSのみなさんに深謝です。
posted by koichi | 10:36 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
誤嚥事故について
 

 日本看護協会出版会が発刊している「コミュニティケア 2014年11月号」に「特別寄稿-どのような誤嚥事故が過失を問われるのか」が掲載されました。

 誤嚥による肺炎を防ぐのは事故を防ぐのはなかなか難しいのですが、食塊などによる窒息による死亡や重症事故は、十分な観察と気管閉塞後の必要な措置で一定程度防止することは可能です。裁判例をまとめてみて紹介をしました。

 看護や介護に携わる人のお役にたば何よりです。
 
posted by koichi | 18:09 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
Modern Physician
 内科系総合雑誌Modern Physicianの2014年10月号は、「転倒予防―これまでとこれから―」の特集です。

 私も、「法律家からみた転倒事故の責任と予防対策への提言」を担当しました。

 10月5日(日)は、日本転倒予防学会の第1回学術集会でした。

 私は、「転倒事例から学ぶ転倒リスクと予防対策」のシンポジストの一人として「紛争事例から見た転倒リスク」を報告しました。

posted by koichi | 16:04 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
転倒予防医学研究会第9回研究集会
  8月にドイツに行っていた3週間弱の空白のダメージは大きく、ブログを更新する余裕なく、1か月以上更新できてませんでした。

 今日は、「転倒予防医学研究会第9回研究集会」でした。
 今回は、私も、「特別プログラム:法律セミナー(会員限定) 『転倒・転落事故における法律的課題』」の題で報告させいただきました。
 全国から参加されている医療関係者(医師、看護師、PT・・・)は実に熱心です。

 昨年の春と今年の秋と、2件の採血時の神経損傷事件で尋問を担当しました。いずれも、神経損傷後の治療を担当した整形外科医です。いずれの整形外科医も、自身の従前の明確な診断を証言台では覆すという、????という経験をしました。証言をした医師自身が採血を担当した事案ではありません。同じ病院の看護師、あるいは、同じ病院の同僚医師の関係する研究での採血の際のトラブルです。
 私は、いずれの整形外科医の尋問においても、当該医師の診療録の記載に基づき、検査結果、所見と当初の診断が整合していることを証言してもらいました。
 両医師共にベテランの整形外科医です。
 今年の秋に尋問した整形外科医は、粘り強く、いろいろな治療を試みて、13年半かかりましたが患者の状態を相当改善することに成功しています。臨床医としては賞賛に値する治療を行ったにもかかわらず、このような成果を上げている自身の診断を証言台で覆すという姿は見たくなかったというのが本音です。

 今日は、よりより医療のために休日返上で研究会に参加されている医療関係者とお話する機会がありました。心が和まされるだけでなく、日本の医療は大丈夫だ!!実務法律家としてサポートできることはサポートしようという気持にさせてくれました。
 転倒予防では、11月には佐久で、来年3月には北上で話をする機会を与えてもらっています。信頼できる医療関係者と共に歩みたいと思っています。
posted by koichi | 17:53 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
外傷性末梢神経損傷と手根管症候群のティネル徴候の特異度は同じ?
 

 手根管症候群のティネル徴候の感度と特異度の報告から外傷による末梢神経損傷、特にneurotmesis(神経断裂)におけるティネル徴候の特異度も低いなどという意見を法廷で述べた医師は、名医で高名な先生なのですが・・・。


 

 反論の意見書を整形外科医に作成してもらい、それを基にして、採血時の正中神経損傷の書面を書いているところです。下記の意見書(部分)をさらに理解しやすいように主張書面とする作業中です。意見書のままでも、かなりわかりやすいと思うのですが、これで十分わかってもらえるのでは?

 それとも、これでは裁判官が理解するのは難しいでしょうかねーー。





>  書面を書いていてあまりにひどいのではと腹がたってのブログ投稿です。

 高名な医師が、こんな証言するのは悲しいとしか言いようがありません。


質問
 一審判決が、「正中神経領域にチネル徴候が認められたとの判定があるとしても、これをもって直ちに原告の正中神経が損傷されたということは困難である。」(25頁)と判示している点について、お考えをお聞かせください。
    回答
1 一審判決は、「正中神経領域にチネル徴候が認められたとの判定があるとしても、これをもって直ちに原告の正中神経が損傷されたということは困難である。」と判示しています。誤解があると思いますので、基本的な点から説明します。

2 末梢神経損傷については、Seddonは次の3つに分類をしています。



   neurapraxia (神経遮断、神経麻痺、一過性伝導障害)
 末梢神経の軽度の挫傷、もしくは圧迫をいい、軸索は保持された状態です。一時的、局所的に感覚伝達に異常を来し、伝達が生理的に遮断されますが、数日もしくは数週間で回復します。

  ◆axonotmesis(軸索断裂)
 軸索が崩壊し、遠位のワーラー変性を伴う損傷をいいます。シュワン細胞、神経内膜管は保持されます。自然再生により機能回復します。

   neurotmesis(神経断裂)
 神経が解剖学的に完全に断裂、もしくは広範囲に裂離し、圧挫損傷を伴います。軸索、シュワン細胞、神経内膜管は完全に断裂され、神経周膜、神経上膜も断裂されます。完全な断裂が認められない場合は神経周膜もしくは神経上膜の断片により間隙が埋められている可能性があり、自然回復は期待できません。

  上記の,、末梢神経の圧迫障害が起こり、一過性に運動麻痺や知覚麻痺が発生することがありますが、軸索は温存されることから可逆性の変化です。axonotmesisとneurotmesisとを区別する方法はTinel徴候の伸びがある(Tinel徴候の部位が末梢側に移動する)か、Tinel徴候の部位が動かないかという点しかありません。



  axonotmesisでは、軸索が損傷していますが、神経内膜管が保持されていますので、神経は自然再生により機能回復します。Tinel徴候の伸びから麻痺の回復は1〜2mm/日で生じ、損傷部からの距離に応じて順に回復し、ほぼ完全に回復します。

 一方、neurotmesisでは、神経の中枢側断端に腫瘤が生じ、この腫瘤は時間が経過しても同じ部位で動きませんので、Tinel徴候部位は変化しません。





  原告のTinel徴候は、受傷後現在まで同じ部位に存しますので、neurotmesisのTinel徴候です。

3 Tinel徴候は、損傷された神経の損傷部位を特定する上で重要な所見であることは世界中の整形外科医の常識です。

  だからこそ、私も原告のTinel徴候を確認していますが、私だけでなく、T医師は、1999年4月2日の初診時に、採血部近くに×印を付け、

 右手肘窩部に強いtingling(ぴりぴり感)(++)

との所見(「tingling」がTinel徴候とも基本的には同義であることは、T医師の調書22頁の説明のとおりです)を認めておりますし、被告側で意見を述べているM医師も、「Tinel(チネル)徴候の有無も末梢神経損傷の有無を診断する上で重要である。」と述べているのです。

 そのTinel徴候を確認する検査手技は、示指、母指、ハンマー等で打診しますが、打診は1度だけで判断するのではなく、打診を数回繰り返すことにより局在を正確に診断できます。打診により当該支配神経領域へのシビレが生じるのは、神経損傷部位=神経の中枢側断端に腫瘤がある部位だけであり、他の部分を打診しても反応はありません。経験ある整形外科医であれば、Tinel徴候を正確にとらえることが可能です。

4 乙B11の文献は、手根管症候群に関する文献です。
  「手根管carpal tunnel(canal)」とは、「手関節部掌側で手根骨と屈筋支帯(線維鞘)により作られたトンネル中を滑膜性腱鞘に包まれた長母指屈筋腱、示指から小指の浅指屈筋腱4本と深指屈筋腱4本、それに正中神経が通る。このトンネルは手根管と呼ばれる(図24-16)。」(標準整形外科学第8版)です。

  「手根管症候群とは、手根管部で正中神経が何らかの原因により圧排されて生ずる正中神経麻痺です。」「初期には感覚神経麻痺の症状として、手指のしびれ(主に母指から環指)や痛みを訴えることが多く、受話器をもつ、新聞を両手でもって読むなどの動作時、あるいは夜間睡眠時に増悪する。夜間痛は緩解することが多く、正中神経の一過性の虚血によるものとされている。圧排が長期に及ぶと正中神経の変性が進行し、持続性のしびれのほか、巧緻運動障害が出現する。初診時、屈筋腱の腱鞘内滑走障害によるばね指が約20%に合併する。」(今日の治療指針2011年版))



  手根管症候群においては、手根管部において圧迫された正中神経の反応としてTinel徴候が出現します。末梢神経損傷と異なり、手根管症候群では、正中神経が損傷されるのではなく、圧迫されるだけであり、その圧迫の程度は様々です。軽度の圧迫に過ぎない場合から神経損傷に匹敵するような正中神経の変性に至っている重度の圧迫まで多様です。

  手根管症候群におけるTinel徴候の感度と特異度が述べられています。

  感度とは、手根管症候群であって、Tinel徴候を伴う場合の割合です。感度が44〜74%ということは、逆から見ますと手根管症候群であってTinel徴候を伴わない場合が26〜56%存在するということを示しています。感度が100%とならないのは、手根管症候群では、正中神経の圧迫の程度が、上記のとおり多様であることを原因としています。圧迫が軽度の場合には、Tinel徴候は出現しにくいのです。

 しかしながら、neurotmesisのTinel徴候では、神経損傷部の中枢側断端に腫瘤が形成されるために生じているものですから、神経の腫瘤が形成された場合の感度は論理的には100%となります。なお、本件では、正中神経損傷によるTinel徴候が現実に存在している事案ですから、感度を議論する意味はありません。
 
 特異度とは、Tinel徴候が見られる場合で手根管症候群であった場合の割合です。特異度が68〜94%ということは、逆から見ますとTinel徴候が認められても手根管症候群でなかった場合が6〜32%存在するということを示しています。

  neurotmesisのTinel徴候では、様々な場所を打診し、神経損傷部位と他の場所を打診した際のシビレの違いを比較します。neurotmesisのTinel徴候では、神経損傷部、すなわち、損傷神経の中枢部に生じた腫瘤が存する部位の一点のみで生じ、他の部位を打診しても反応はありません。そのため、神経損傷のない部位の打診と神経損傷ある部位の打診との反応は顕著に異なり、これを比較できますので、局在することが明確に判明します。

  一方、手根管症候群の診断をするために打診する部位は、手根管だけですので、被験者が手根管を打診された際に正中神経支配領域の手指に広がるシビレの有無を答えなければなりません。打診の部位を変えてシビレの有無を比較するというものではありませんので、比較対照する他の打診はなく、打診があった際に、正中神経領域の手指がシビレたかシビレていないかを判断しなければならないので被験者の感覚に影響されやすいとされているのです。教科書的には、Tinel徴候、Phalenのテスト(手関節を強く掌屈させることによりしびれ感が誘発される)、末梢神経伝導速度検査を併用することが勧められています。

5 神経損傷を原因とするTinel徴候は、手根管症候群のTinel徴候と異なり、他の部位の打診と比較して、一点のみで反応するため、神経損傷のない部分を打診した場合の反応と神経損傷中枢断端に腫瘤が形成された部分の反応は顕著に異なり、特異度が低いなどということはありません。

  経験ある複数の整形外科医が、時期を異にして、同一部位にTinel徴候が存続し続けていることを確認している症例において、このTinel徴候の原因がneurotmesisでなかったなどという事例については、自験例でもありませんし、症例報告で見たこともありません。

  そもそも、神経損傷の診断においてTinel徴候の信頼性が低いなどという報告は私は見たことはありませんし、T医師も、神経損傷の診断においてTinel徴候の信頼性が低いなどという報告を知らないと答えているとおりです(調書44頁)。

  同じTinel徴候と言っても、neurotmesisのTinel徴候と手根管症候群のTinel徴候との異同を正確に理解していただきたいと思っています。


******************************************************************************** 上記意見書は、反論なのでそもそもの、そもそもの反論の対象となっている意見書=採血針による外傷性の神経損傷のティネル徴候を圧迫性の手根管症候群のティネル徴候と同一に論じた元の意見書も引用しておきましょう。
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(3)チネル試験、チネル兆候について
 Tinel signは臨床的には2つの意味を持っています。
 Tinel signとは、本来、損傷された末梢神経が徐々に回復して伸びていくとき、再生部分の先端が過敏になることから、どの辺まで神経再生が進んでいるかを判断するものでした。すなわち、損傷された(切れた)神経が手術で縫合された場合の回復過程において、縫合された神経と神経束内の線維(軸索といいます)が1日1ミリ程度伸びていき、最終的に目的の皮膚や筋肉に到達して初めて末梢神経として再機能するのですが、この伸びている先端は他の部位より過敏になります。これを利用して、縫合後の神経或いは不全損傷の回復過程の神経がどこまで伸びているのかの指標に使うのが、もともと使われていたTinelサインです。

 ところがもう一つは、圧迫神経障害など神経幹は切れていないものの、圧迫障害など障害がある部位では、損傷部分を叩打すると、他の部位より上記と類似した過敏な反応を示すことに着目したもので、手根管症候群や肘の内側の尺骨神経の障害におけるTinelサインはこちらに相当します。日本の末梢神経の専門家は以前後者をTinel様サインと分けていましたが、だんだんその境界がなくなってきて、現在ではこれも一緒にされてしまっています(現在ではTinelサインとTinel様サインも、あまり区別されていません)。

 Tinel signがどの程度損傷神経の部位診断に信頼の置けるものかどうか、日本ではきちんとしたdataはないと思います。

 乙B12の文献は、Tinel signはあまり信頼性がおけないという趣旨の論文ですが、この論文が掲載されているJournal of Hand Surgery(Am)は手の外科・末梢神経領域の臨床医学雑i誌では最も権威の高い雑i誌のひとつで、どこかの教科書に書いてあるというものより、学問的にはずっと信頼性が高いものです(余談ですが、自分もよく教科書のたぐいを書かされますが、あれは孫引きが多く、エビデンスが低いものと思っており、裁判などでしばしば使われるのは妙に感じます)。

 すなわち乙B12("Intra-and Inter-Examiner Variability in Perfoming Tinel's Test"←望月が追加)の文献は、Tinel signは施術者によってその叩打の強さ、器具使用の有無等の手法がまちまちで統一されていないということが書かれており、また場合によっては健常な神経を叩打しても、これをTinel signと誤って解釈される恐れがあるという点で、私もこの論文の趣旨には同様の見解です。

 手根管症候群は上の二番目に書いたような圧迫神経障害ですので、正確にいうと本件の状況とは異なりますが、本件で問題とされている正中神経障害の証拠としてのTinelサインは回復部位を示しているわけではないので、広い意味ではこの範疇に入れても良いと思います。但し、この論文にもあるように、Tlnelサインらしきものがあるからといって、その部位の神経が明らかに障害されている確証にはならないというのが、一般的な考え方です。

 この乙B12には、「多数の近時の研究はCTSの診断におけるチネル徴候の有用性が乏しいことを報告している。報告されている感度(注:実際に神経損傷がある症例を、チネルテストで感知し得る確率)は44%〜79%であり特異度(注:チネルテストで感知した事例のうち、実際に神経損傷がある確率)は68〜94%である。このため、多くの研究者達はCTSに対する他の臨床試験である、手根管圧迫テスト、圧迫刺激テスト、手徴候ダイヤグラム等の方を支持している」との記載については、数値には確信はありませんが(日本ではもっと低いのではないかと思います)、一般的には大体その通りだと認識されていると思います。

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手根管症候群のティネル徴候の信用性を引き合いにして、外傷性末梢神経損傷のティネル徴候の信用性も低いとの意見を述べている医師の法廷でのやりとりも追加しました(7月19日追加)。
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【質問:被告代理人】チネル試験についてちょっとお聞きしますが、陳述書にチネル試験について感度と特異度というようなことが書かれていて、いちいち示しませんけれども、アメリカの文献が出ていて、感度は44から79%、それから特異度は68から94%であるという文献に対して、証人は、日本ではもっとそれよりも低いのではないかと、確信はありませんが一般的にはというようなことが書いてますが、改めてチネル試験についての信用性というのは、先生はどのように考えますか。
【回答】チネルサインというのは、末梢神経が損傷されたときに、その神経の走行に沿ってたたくと、ビリビリするということを言ってるんですけれども、あくまでも患者さんの訴えを医者がインタビューして、サインがある、なしと書いてありますので、定量的なデータではありません。ですから、非常に主観も入りますので、もともと余り確かなものではない。私が記憶している限り、日本ではそのチネルサインの特異性などに関して詳細なデータを出してはいないんではないかなと思います。

【質問:原告代理人】先生もチネル徴候をとっておりますし、先生がとったのはティングリングという表現になりますけれども、M先生もチネル徴候は神経損傷を判断する上で重要な要素であるというご意見なんですが、先生はちょっと先ほどそれと違うようなことをおっしゃったように聞いたのですが。
【回答】もちろん非常に関連する重要な診察所見の1つなんですけれども、あるから障害がある、チネル徴候がないから損傷がないというふうに断言できるものではないということを先ほど述べました。

【質問:原告代理人】 要するにいろんな症状を評価していくんだから、チネル徴候一本というのは危ないよと、こういう意味ですか。
【回答】はい、そうです。

【質問:原告代理人】それから、先生が先ほど紹介しておられましたチネル徴候の信用性がというとこの論文は、あれは神経損傷についての検討された論文でしたか。
【回答】あれは手根管症候群に関してです。

【質問:原告代理人】そうですね。手根管症候群をチネル徴候だけで判断するのはいかなるものかという趣旨の論文ですよね。
【回答】はい。

【質問:原告代理人】神経損傷について、チネル徴候について感受性がとか、そういう論文は、先生はご覧になったことはございますか。
【回答】すみません。余り具体的な数字が出ているものは、存じ上げておりません。





posted by koichi | 17:25 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
転倒予防シリーズ終了報告
 重なる時は重なるもので、5月19日の日本認知症ケア学会での「シンポジウム機転倒予防」のシポジストから始まり、



  6月9日の 転倒予防医学研究会 『第15回転倒予防指導者養成講座』(東京)では、 講義4 「裁判事例から見る施設内転倒のリスク因子」のお題で講義を担当し、


 6月24日には「協同組合中央接骨師会」が主催する上期学術講習会で、「裁判事例から見る病院・介護施設内での認知症高齢者の転倒事故予防」というテーマでお話しをさせていただく機会がありました。


  日本医療評価機構の調査では、死亡・後遺障害を残す医療事故の29%が転倒・転落・衝突事故です。医療関係者・介護関係者の関心が高い分野ですので、引き続きお手伝いしたいと思っています。
posted by koichi | 10:06 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
転倒事故の予防
  プールでの飛び込み事故で武藤芳照先生と知り合って二十数年。

 最初の武藤先生との出会いでの「激論」後、命と健康を守りたいというベースは共通と認識してからは、武藤先生に私をいろいろと「活用」いただいております。二十数年の通算の貸借対照表で言うと、10年前位までは「借」の超過状態だったのはまちがいないのですが、最近は「貸」の超過状態になっていると思うのですが・・・(^_^)

 弁護士としては私は全くかかわりがなかった「転倒予防」にかかわるようになったのも、武藤先生からのお声掛かりが切っ掛け。

 「講演・論文・事件。どれも頼まれたら断らない。勉強する機会を与えてくれたと思え」との原則。私の師匠の教えですので、武藤先生からのお声がかかったところで、何の躊躇もなく、「転倒予防」にもかかわっています。

ということで、今や「転倒予防」も私の専門分野の1つになっています。

 私の長女(27)は、介護職5年目。
 有料老人ホームで働いていますが、その職場では転倒事故は日常的に生じています。

 長女は、2週間前には、夜勤中に、体格のいい方を車椅子に移乗中にバランスを失い、幸い、被介護者は転倒させずに、ベッドに戻せたのですが、介護していた自身が足関節の靱帯損傷に。
 長女は、被介護者をベッドに座らせた後は、床に倒れ、そのまま立ち上がれず、コールボタンで同僚を呼び、助けてもらったそうです。

 翌日の勤務者が出勤するまでは代替者がいないので、勤務続行(座作業のみ)で、退勤後の昼前に整形外科を受診でした。

 技術的な部分は私の専門ではないので、介護技術に問題があったのかもしれませんが、そもそも、介護スタッフが少ないなかで、介護側に無理が強いられているという背景があると思っています。

 この事故後は、
女性の介護者が、この被介護者の移譲をする場合には、複数体制とする申し送りになったそうです。夜勤は、2人の夜勤体制なので、女性2人の夜勤では、この被介護者の介護中は、ステーションは空っぽ!

 「転倒予防」の講演では、一昨年、鈴木弘美弁護士とチームを組んで、転倒予防医学研究会で、事例研究を担当しました。転倒事故裁判事例をベースに、私が介護者側の主張を、鈴木弁護士が転倒した家族側の主張をし、その後、二人で、裁判所がその事件をどのように判断したかという解説をする企画でした。

 この企画は、「満員御礼」の状態で、椅子席は満席、立見の人が会場に入りきらないという盛況でした。私が介護者側の主張をすると、深くうなずく参加者のみなさんでしたが、解説段階で、「この弁明はとおりませんでした」というと肩を落とす参加者が印象的でした。

 現場は頑張っていると信じていますし、これが真実だと思っています。

 手を抜いているのではないのに事故が起こってしまう!!

 介護技術の向上も課題とは思いますが、そもそも人が足りていない!!
 この現実を解決しないで、介護施設・医療施設における転倒事故は防止できないのではないでしょうか。

 働きたいと思っていても職がない人があふれている一方で、人が足りないという職場もあふれています。

 ここを解決できる行政を期待しているのですが・・・。今の政府では無理だろうな。。。(^^;;。
 今ひとつ展望が見えない、この閉塞感を打開したいな。
posted by koichi | 12:17 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
正中神経損傷⇒CRPS事案
 5月19日に集中証拠調べをした採血時の正中神経損傷⇒CRPS事案のまとめの準備書面(本日追加資料が届いたので、まとめの補充の準備書面を作成したので最終準備書面にならず(^_^))を提出です。

 受け取る被告代理人もうんざりでしょうが、作成する側もくたびれました。自動作成される目次(匿名化後)は以下のようです。

 このブログを読んだ友人はきっと慰労会のオファーをしてくれると信じています。(m_m)



 第1 本件事案の概要と争点の所在
      1 本件事案の概要    1
      2 事実認定に関する争点の所在    1
      3 回避可能性についての原告の主張    1
        第2 原告を診察した医師たちの診断    3
      1 被告H医師    3
      2 T医師    4
      3 M医師    5
      4 MT医師及びI医師    6
      5 IT医師    7
      6 小括    8
        第3 当初の正中神経損傷の診断vs本訴後の正中神経損傷否定の意見:いずれが正しいのか    8
      1 争点の所在    9
      2 被告H医師の「正中神経傷害」の診断撤回について    9
    1) 被告H医師が「正中神経傷害」の診断撤回をした理由    9
    2) 正中神経と肘窩部における末梢神経は同義か?    10
    3) 真実は何か    12
    4) 被告H医師が正中神経損傷と診断した事実の隠蔽    14
    5) 被告H医師が迅速な診療を怠った事実の隠蔽    21
(1) どうして初診日が4月2日(金)になったのか?    23
(2) 被告H医師は月曜日が受診可能だとは指示していない。    24
(3) 原告の母が被告H医師に電話したのは、3月29日(月)か30日(火)か?     26
(4) どうして、原告の母は、3月29日に被告安藤に電話をしているのか    27
      3 T医師の「正中神経障害」の診断撤回について    28
    1) T医師が「正中神障害」の診断撤回をした理由    28
    2) T医師の診療経過    29
(1) 1999年4月2日    30
(2) 1999年4月9日    35
(3) 1999年4月16日    37
(4) 1999年4月30日    40
(5) 1999年5月7日    41
(6) 1999年5月19日(1):2つある知覚検査用紙    44
(7) 1999年5月19日(2):リハビリテーション科に保存された知覚検査の結果    45
(8) 1999年5月21日     54
(9) 1999年6月11日    56
(10) 1999年6月25日    58
(11) T医師の診療経過のまとめ    61
    3) K大学以外の医療機関の診療記録から原告の正中神経損傷は否定されるのか?    63
    4) 小括    65
        第4 本件採血時に何が起こったのか?    65
      1 原告の右腕の採血はどの血管からなされたのか?    65
      2 採血を中断した事実    66
    1) 採血管の中に血が入り出した後に原告が痛みを訴えた事実    66
(1) 事実について    66
(2) 採血時の事実関係から判明する事実について(1)    70
(3) 採血時の事実関係から判明する事実について(2)    71
(4) 採血時の事実関係から判明する事実について(3)    72
    2) 被告S看護師は、原告から再度採血を実施せず、被告H医師が再度の採血を実施した事実    72
        第5 原告にCRPSタイプ兇両評が存することについて    74
      はじめに    74
      1 労災補償行政上のカウザルギーの認定基準について    75
      2 T医師意見書について    82
      3 MY意見書について    87
    1) Kozinの診断基準について    87
    2) 国際疼痛学会の1994(平成6)年診断基準について    89
    3) 国際疼痛学会の2005(平成17)年診断基準について    91
      4 原告の後遺障害について    93
    1) 後遺障害判断基準と原告の障害の内容    93
    2) MY医師の意見とこれに対する原告の反論    94
    3) 疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び日内変動    95
      5 まとめ    106
        第6 被告の反論とこれに対する原告の主張    106
      1 本件採血部位における採血では、正中神経損傷は生じえないのか    106
    1) 被告の主張    107
    2) 採血担当者側の注意喚起    110
(1) 標準採血法ガイドライン    110
(2) 日赤の作業手順書    110
(3) 医療機関自身による注意喚起    112
(4) 「わき見」「患者が急に腕を動かした」といった特別なことがない限り、正中神経は損傷しないのか?    112
    3) 静脈血採血時の正中神経症例    113
    4) 正中神経と静脈との解剖学的な位置関係    116
      2 飛び上がるほどの激痛でなければ、採血針による正中神経損傷は否定されるのか?    125
    1) 被告S看護師、被告H医師ほか関係者の供述を理由とする「電撃痛」の不存在                                                                     126
    2) 2度目の採血に応じたことは「電撃痛」の不存在を否定するのか    129
    3) 採血時の痛みが「飛び上がるほど」でなければ正中神経損傷は否定されるのか?    130
    4) 日本大学医学部麻酔科Kの指摘    131
      3 ティネル徴候について    132
posted by koichi | 22:06 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
医師としての姿勢(2)
 5月21日のブログの続編です。

 午後に横浜簡易裁判所での賃料減額請求事件の調停を成立させて、事務所に戻ってからは、5月19日に証人尋問を行った事件の最終準備書面のドラフト作成中です。尋問調書作成後に着手すると忙しい思いをするので先行しての作業です。

 被告主張への反論を書いていたのですが、途中であまりにもバカバカしくなり、一時、作業を中断してコーヒータイム。ついでに<医師としての姿勢>の続編を書いています。

 採血時の正中神経損傷⇒CRPS(複合性局所疼痛症候群)事案です。

 前回は、被告の医師と同じ大学病院の整形外科の医師が、自身が診療録上に残した
   「診療依頼票(外来用):4/2」の回答
  ◆仝絨紊悗「紹介・診療情報提供書:6/25」の記載内容
と全く相反する意見書を裁判所に提出していることを紹介しました。

 今回は、この研究プロジェクトの主催者の一人であり、原告を受傷後5日目(4/2)に診察した整形外科を専門としていない被告医師(大学病院の医師)の診療録の記載と裁判所に提出された陳述書の記載です。

 この被告医師は、初診時(4/2)には、自身で診療した後に、整形外科医に紹介をしております。

 被告医師は、診療録(4/2)には、
     「<整形外科>正中神経の損傷 ながびくかもしれない」
と記載しています。

 被告医師が作成した診断書(4/9)には、
   「正中神経傷害」
の診断名が記載されています。
 
 しかし、訴訟になってからは、被告医師は、この診断名について次のとおり陳述書で弁明をしています。

 被告医師は、自身が整形外科医ではないことを説明した上で、

  1. 「ここで私が「正中神経」と書いたのは、採血後に痛みが継続しているとすれば、前腕で最も代表的な神経は正中神経であり、正中神経のような「末梢神経障害」が疑われるという程度の意味で書いたもので」
  2. 「正中神経を実際に損傷したという医学的根拠に基づいた診断をくだしたわけではありません。」
と述べています。

 被告医師にとっては、診療記録に記載された診断名である
      「正中神経傷害」(4月9日付診断書、診療録6頁)
      「正中神経の損傷」(4月2日の記載、診療録3頁)
  と、提訴後に作成されて裁判所に証拠として提出された陳述書の中の
      「末梢神経障害疑い
  とが同義であるというのです。損傷した神経の名称の差も問題ですが、「傷害、損傷」が「障害」に置き換えられている点、「疑い」が突如登場する点も注目してください。

 被告医師自身が、診療録上に留めた
      「正中神経傷害」(4月9日付診断書、診療録6頁)
      「正中神経の損傷」(4月2日の記載、診療録3頁)
  との診断名は、「正中神経を実際に損傷したという医学的根拠に基づいた診断をくだしたわけではありません」というのです。

 医師のみなさん。みなさんが学生時代、あるいは、医師になって間もない頃に
      「末梢神経障害疑い」
の意味で、診療録や診断書に
      「正中神経傷害」(4月9日付診断書、診療録6頁)
      「正中神経の損傷」(4月2日の記載、診療録3頁)
と書くように(あるいは書いてもかまわない)と指導担当の先輩医師から指導を受けたことはありますか?
 
   「正中神経を実際に損傷したという医学的根拠に基づいた診断をくだしたわけではありません」が、診療録や診断書に
      「正中神経傷害」(4月9日付診断書、診療録6頁)
      「正中神経の損傷」(4月2日の記載、診療録3頁)
と書くように(あるいは書いてもかまわない)と指導担当の先輩医師から指導を受けたことはありますか?

 年齢的にも病院内におけるポストに照らしてもすでに指導的な立場におられる被告医師が、自身で指導を受け持っている学生や経験の浅い医師に上記のような指導をするようには到底思えないのですが、裁判所に出された証拠として陳述書では、このような記載がなされるのです。

 医学の世界の中では、こんな恥ずかしいことを述べることは決してないのでしょうが、裁判所では、大学病院の医師の肩書きでこのような弁明が堂々となされます。
 
 私は、これらの一つ一つがいかにおかしいかを裁判所に理解してもらえるよう説明する書面を作成していたのですが、日本の医療というのはこんなことをしなければならない水準なのが悲しいです。

 どんな立派な人でも人生に一度もミスがないなどということはないと思います。ミスした時にどう振る舞うのか。

 映画「レフェリー」(イブ・イノン監督)。イングランドのサッカー審判員ハワード・ウェブは、2008年欧州選手権の主審を務めた際に、副審がオフサイドの判定をしなかった誤審に直面しました。ハワード・ウェブは、相手チームに誤審を率直に謝罪したエピソードが紹介されています(誤審を謝罪してもゴールは消えません)。彼は、この選手権では途中で帰国していますが、2010年ワールドカップでは、決勝戦の主審を務めました。

 私自身は、ハワード・ウェブのやり方を支持します。

 誤りがあれば、早く謝罪し、その後リカバリーとしてやれることをやればいいのですから。医療事故の多くでは、失われたものをもとどおりにすることは困難です。やれることをやることが重要だと思っています。

 私自身、医療従事者の方々に、医療機関における危機管理についてお話しをする機会があります。そこでお話しをしているのは、 「事故を紛争にしないための医療者の智恵」 です。私が正しいと思う危機管理の方法は、ハーバード大学が2006年に発表した手法と基本的には同じ考えです。私は自身の経験から判断していましたが、ハーバード大学はエビデンスの裏付けをもっての発表です。 ⇒医療過誤問題における医療者の対処法(整形外科診療における肺血栓塞栓症-患者救済と法的問題点-、ライフサイエンス社、東京、28-36,2009)参照

 残念ながら、日本では未だ主流にはなっていないのでしょうね。
posted by koichi | 17:10 | 医療 | comments(1) | trackbacks(0) |