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@虎ノ門協同法律事務所
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医師としての姿勢(2)
 5月21日のブログの続編です。

 午後に横浜簡易裁判所での賃料減額請求事件の調停を成立させて、事務所に戻ってからは、5月19日に証人尋問を行った事件の最終準備書面のドラフト作成中です。尋問調書作成後に着手すると忙しい思いをするので先行しての作業です。

 被告主張への反論を書いていたのですが、途中であまりにもバカバカしくなり、一時、作業を中断してコーヒータイム。ついでに<医師としての姿勢>の続編を書いています。

 採血時の正中神経損傷⇒CRPS(複合性局所疼痛症候群)事案です。

 前回は、被告の医師と同じ大学病院の整形外科の医師が、自身が診療録上に残した
   「診療依頼票(外来用):4/2」の回答
  ◆仝絨紊悗「紹介・診療情報提供書:6/25」の記載内容
と全く相反する意見書を裁判所に提出していることを紹介しました。

 今回は、この研究プロジェクトの主催者の一人であり、原告を受傷後5日目(4/2)に診察した整形外科を専門としていない被告医師(大学病院の医師)の診療録の記載と裁判所に提出された陳述書の記載です。

 この被告医師は、初診時(4/2)には、自身で診療した後に、整形外科医に紹介をしております。

 被告医師は、診療録(4/2)には、
     「<整形外科>正中神経の損傷 ながびくかもしれない」
と記載しています。

 被告医師が作成した診断書(4/9)には、
   「正中神経傷害」
の診断名が記載されています。
 
 しかし、訴訟になってからは、被告医師は、この診断名について次のとおり陳述書で弁明をしています。

 被告医師は、自身が整形外科医ではないことを説明した上で、

  1. 「ここで私が「正中神経」と書いたのは、採血後に痛みが継続しているとすれば、前腕で最も代表的な神経は正中神経であり、正中神経のような「末梢神経障害」が疑われるという程度の意味で書いたもので」
  2. 「正中神経を実際に損傷したという医学的根拠に基づいた診断をくだしたわけではありません。」
と述べています。

 被告医師にとっては、診療記録に記載された診断名である
      「正中神経傷害」(4月9日付診断書、診療録6頁)
      「正中神経の損傷」(4月2日の記載、診療録3頁)
  と、提訴後に作成されて裁判所に証拠として提出された陳述書の中の
      「末梢神経障害疑い
  とが同義であるというのです。損傷した神経の名称の差も問題ですが、「傷害、損傷」が「障害」に置き換えられている点、「疑い」が突如登場する点も注目してください。

 被告医師自身が、診療録上に留めた
      「正中神経傷害」(4月9日付診断書、診療録6頁)
      「正中神経の損傷」(4月2日の記載、診療録3頁)
  との診断名は、「正中神経を実際に損傷したという医学的根拠に基づいた診断をくだしたわけではありません」というのです。

 医師のみなさん。みなさんが学生時代、あるいは、医師になって間もない頃に
      「末梢神経障害疑い」
の意味で、診療録や診断書に
      「正中神経傷害」(4月9日付診断書、診療録6頁)
      「正中神経の損傷」(4月2日の記載、診療録3頁)
と書くように(あるいは書いてもかまわない)と指導担当の先輩医師から指導を受けたことはありますか?
 
   「正中神経を実際に損傷したという医学的根拠に基づいた診断をくだしたわけではありません」が、診療録や診断書に
      「正中神経傷害」(4月9日付診断書、診療録6頁)
      「正中神経の損傷」(4月2日の記載、診療録3頁)
と書くように(あるいは書いてもかまわない)と指導担当の先輩医師から指導を受けたことはありますか?

 年齢的にも病院内におけるポストに照らしてもすでに指導的な立場におられる被告医師が、自身で指導を受け持っている学生や経験の浅い医師に上記のような指導をするようには到底思えないのですが、裁判所に出された証拠として陳述書では、このような記載がなされるのです。

 医学の世界の中では、こんな恥ずかしいことを述べることは決してないのでしょうが、裁判所では、大学病院の医師の肩書きでこのような弁明が堂々となされます。
 
 私は、これらの一つ一つがいかにおかしいかを裁判所に理解してもらえるよう説明する書面を作成していたのですが、日本の医療というのはこんなことをしなければならない水準なのが悲しいです。

 どんな立派な人でも人生に一度もミスがないなどということはないと思います。ミスした時にどう振る舞うのか。

 映画「レフェリー」(イブ・イノン監督)。イングランドのサッカー審判員ハワード・ウェブは、2008年欧州選手権の主審を務めた際に、副審がオフサイドの判定をしなかった誤審に直面しました。ハワード・ウェブは、相手チームに誤審を率直に謝罪したエピソードが紹介されています(誤審を謝罪してもゴールは消えません)。彼は、この選手権では途中で帰国していますが、2010年ワールドカップでは、決勝戦の主審を務めました。

 私自身は、ハワード・ウェブのやり方を支持します。

 誤りがあれば、早く謝罪し、その後リカバリーとしてやれることをやればいいのですから。医療事故の多くでは、失われたものをもとどおりにすることは困難です。やれることをやることが重要だと思っています。

 私自身、医療従事者の方々に、医療機関における危機管理についてお話しをする機会があります。そこでお話しをしているのは、 「事故を紛争にしないための医療者の智恵」 です。私が正しいと思う危機管理の方法は、ハーバード大学が2006年に発表した手法と基本的には同じ考えです。私は自身の経験から判断していましたが、ハーバード大学はエビデンスの裏付けをもっての発表です。 ⇒医療過誤問題における医療者の対処法(整形外科診療における肺血栓塞栓症-患者救済と法的問題点-、ライフサイエンス社、東京、28-36,2009)参照

 残念ながら、日本では未だ主流にはなっていないのでしょうね。
posted by koichi | 17:10 | 医療 | comments(1) | trackbacks(0) |
コメント
大方の位置は
日常生活を侵害されるのを恐れ
基本的に
後ろ向きです

カルテの精査は
意見書を書く時にはちゃんと実行してほしいですね

上つらだけの二次資料で
本質がゆがめられていく事が多すぎます
2011/06/10 07:41 by 今さん
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