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@虎ノ門協同法律事務所
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外傷性末梢神経損傷と手根管症候群のティネル徴候の特異度は同じ?
 

 手根管症候群のティネル徴候の感度と特異度の報告から外傷による末梢神経損傷、特にneurotmesis(神経断裂)におけるティネル徴候の特異度も低いなどという意見を法廷で述べた医師は、名医で高名な先生なのですが・・・。


 

 反論の意見書を整形外科医に作成してもらい、それを基にして、採血時の正中神経損傷の書面を書いているところです。下記の意見書(部分)をさらに理解しやすいように主張書面とする作業中です。意見書のままでも、かなりわかりやすいと思うのですが、これで十分わかってもらえるのでは?

 それとも、これでは裁判官が理解するのは難しいでしょうかねーー。





>  書面を書いていてあまりにひどいのではと腹がたってのブログ投稿です。

 高名な医師が、こんな証言するのは悲しいとしか言いようがありません。


質問
 一審判決が、「正中神経領域にチネル徴候が認められたとの判定があるとしても、これをもって直ちに原告の正中神経が損傷されたということは困難である。」(25頁)と判示している点について、お考えをお聞かせください。
    回答
1 一審判決は、「正中神経領域にチネル徴候が認められたとの判定があるとしても、これをもって直ちに原告の正中神経が損傷されたということは困難である。」と判示しています。誤解があると思いますので、基本的な点から説明します。

2 末梢神経損傷については、Seddonは次の3つに分類をしています。



   neurapraxia (神経遮断、神経麻痺、一過性伝導障害)
 末梢神経の軽度の挫傷、もしくは圧迫をいい、軸索は保持された状態です。一時的、局所的に感覚伝達に異常を来し、伝達が生理的に遮断されますが、数日もしくは数週間で回復します。

  ◆axonotmesis(軸索断裂)
 軸索が崩壊し、遠位のワーラー変性を伴う損傷をいいます。シュワン細胞、神経内膜管は保持されます。自然再生により機能回復します。

   neurotmesis(神経断裂)
 神経が解剖学的に完全に断裂、もしくは広範囲に裂離し、圧挫損傷を伴います。軸索、シュワン細胞、神経内膜管は完全に断裂され、神経周膜、神経上膜も断裂されます。完全な断裂が認められない場合は神経周膜もしくは神経上膜の断片により間隙が埋められている可能性があり、自然回復は期待できません。

  上記の,、末梢神経の圧迫障害が起こり、一過性に運動麻痺や知覚麻痺が発生することがありますが、軸索は温存されることから可逆性の変化です。axonotmesisとneurotmesisとを区別する方法はTinel徴候の伸びがある(Tinel徴候の部位が末梢側に移動する)か、Tinel徴候の部位が動かないかという点しかありません。



  axonotmesisでは、軸索が損傷していますが、神経内膜管が保持されていますので、神経は自然再生により機能回復します。Tinel徴候の伸びから麻痺の回復は1〜2mm/日で生じ、損傷部からの距離に応じて順に回復し、ほぼ完全に回復します。

 一方、neurotmesisでは、神経の中枢側断端に腫瘤が生じ、この腫瘤は時間が経過しても同じ部位で動きませんので、Tinel徴候部位は変化しません。





  原告のTinel徴候は、受傷後現在まで同じ部位に存しますので、neurotmesisのTinel徴候です。

3 Tinel徴候は、損傷された神経の損傷部位を特定する上で重要な所見であることは世界中の整形外科医の常識です。

  だからこそ、私も原告のTinel徴候を確認していますが、私だけでなく、T医師は、1999年4月2日の初診時に、採血部近くに×印を付け、

 右手肘窩部に強いtingling(ぴりぴり感)(++)

との所見(「tingling」がTinel徴候とも基本的には同義であることは、T医師の調書22頁の説明のとおりです)を認めておりますし、被告側で意見を述べているM医師も、「Tinel(チネル)徴候の有無も末梢神経損傷の有無を診断する上で重要である。」と述べているのです。

 そのTinel徴候を確認する検査手技は、示指、母指、ハンマー等で打診しますが、打診は1度だけで判断するのではなく、打診を数回繰り返すことにより局在を正確に診断できます。打診により当該支配神経領域へのシビレが生じるのは、神経損傷部位=神経の中枢側断端に腫瘤がある部位だけであり、他の部分を打診しても反応はありません。経験ある整形外科医であれば、Tinel徴候を正確にとらえることが可能です。

4 乙B11の文献は、手根管症候群に関する文献です。
  「手根管carpal tunnel(canal)」とは、「手関節部掌側で手根骨と屈筋支帯(線維鞘)により作られたトンネル中を滑膜性腱鞘に包まれた長母指屈筋腱、示指から小指の浅指屈筋腱4本と深指屈筋腱4本、それに正中神経が通る。このトンネルは手根管と呼ばれる(図24-16)。」(標準整形外科学第8版)です。

  「手根管症候群とは、手根管部で正中神経が何らかの原因により圧排されて生ずる正中神経麻痺です。」「初期には感覚神経麻痺の症状として、手指のしびれ(主に母指から環指)や痛みを訴えることが多く、受話器をもつ、新聞を両手でもって読むなどの動作時、あるいは夜間睡眠時に増悪する。夜間痛は緩解することが多く、正中神経の一過性の虚血によるものとされている。圧排が長期に及ぶと正中神経の変性が進行し、持続性のしびれのほか、巧緻運動障害が出現する。初診時、屈筋腱の腱鞘内滑走障害によるばね指が約20%に合併する。」(今日の治療指針2011年版))



  手根管症候群においては、手根管部において圧迫された正中神経の反応としてTinel徴候が出現します。末梢神経損傷と異なり、手根管症候群では、正中神経が損傷されるのではなく、圧迫されるだけであり、その圧迫の程度は様々です。軽度の圧迫に過ぎない場合から神経損傷に匹敵するような正中神経の変性に至っている重度の圧迫まで多様です。

  手根管症候群におけるTinel徴候の感度と特異度が述べられています。

  感度とは、手根管症候群であって、Tinel徴候を伴う場合の割合です。感度が44〜74%ということは、逆から見ますと手根管症候群であってTinel徴候を伴わない場合が26〜56%存在するということを示しています。感度が100%とならないのは、手根管症候群では、正中神経の圧迫の程度が、上記のとおり多様であることを原因としています。圧迫が軽度の場合には、Tinel徴候は出現しにくいのです。

 しかしながら、neurotmesisのTinel徴候では、神経損傷部の中枢側断端に腫瘤が形成されるために生じているものですから、神経の腫瘤が形成された場合の感度は論理的には100%となります。なお、本件では、正中神経損傷によるTinel徴候が現実に存在している事案ですから、感度を議論する意味はありません。
 
 特異度とは、Tinel徴候が見られる場合で手根管症候群であった場合の割合です。特異度が68〜94%ということは、逆から見ますとTinel徴候が認められても手根管症候群でなかった場合が6〜32%存在するということを示しています。

  neurotmesisのTinel徴候では、様々な場所を打診し、神経損傷部位と他の場所を打診した際のシビレの違いを比較します。neurotmesisのTinel徴候では、神経損傷部、すなわち、損傷神経の中枢部に生じた腫瘤が存する部位の一点のみで生じ、他の部位を打診しても反応はありません。そのため、神経損傷のない部位の打診と神経損傷ある部位の打診との反応は顕著に異なり、これを比較できますので、局在することが明確に判明します。

  一方、手根管症候群の診断をするために打診する部位は、手根管だけですので、被験者が手根管を打診された際に正中神経支配領域の手指に広がるシビレの有無を答えなければなりません。打診の部位を変えてシビレの有無を比較するというものではありませんので、比較対照する他の打診はなく、打診があった際に、正中神経領域の手指がシビレたかシビレていないかを判断しなければならないので被験者の感覚に影響されやすいとされているのです。教科書的には、Tinel徴候、Phalenのテスト(手関節を強く掌屈させることによりしびれ感が誘発される)、末梢神経伝導速度検査を併用することが勧められています。

5 神経損傷を原因とするTinel徴候は、手根管症候群のTinel徴候と異なり、他の部位の打診と比較して、一点のみで反応するため、神経損傷のない部分を打診した場合の反応と神経損傷中枢断端に腫瘤が形成された部分の反応は顕著に異なり、特異度が低いなどということはありません。

  経験ある複数の整形外科医が、時期を異にして、同一部位にTinel徴候が存続し続けていることを確認している症例において、このTinel徴候の原因がneurotmesisでなかったなどという事例については、自験例でもありませんし、症例報告で見たこともありません。

  そもそも、神経損傷の診断においてTinel徴候の信頼性が低いなどという報告は私は見たことはありませんし、T医師も、神経損傷の診断においてTinel徴候の信頼性が低いなどという報告を知らないと答えているとおりです(調書44頁)。

  同じTinel徴候と言っても、neurotmesisのTinel徴候と手根管症候群のTinel徴候との異同を正確に理解していただきたいと思っています。


******************************************************************************** 上記意見書は、反論なのでそもそもの、そもそもの反論の対象となっている意見書=採血針による外傷性の神経損傷のティネル徴候を圧迫性の手根管症候群のティネル徴候と同一に論じた元の意見書も引用しておきましょう。
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(3)チネル試験、チネル兆候について
 Tinel signは臨床的には2つの意味を持っています。
 Tinel signとは、本来、損傷された末梢神経が徐々に回復して伸びていくとき、再生部分の先端が過敏になることから、どの辺まで神経再生が進んでいるかを判断するものでした。すなわち、損傷された(切れた)神経が手術で縫合された場合の回復過程において、縫合された神経と神経束内の線維(軸索といいます)が1日1ミリ程度伸びていき、最終的に目的の皮膚や筋肉に到達して初めて末梢神経として再機能するのですが、この伸びている先端は他の部位より過敏になります。これを利用して、縫合後の神経或いは不全損傷の回復過程の神経がどこまで伸びているのかの指標に使うのが、もともと使われていたTinelサインです。

 ところがもう一つは、圧迫神経障害など神経幹は切れていないものの、圧迫障害など障害がある部位では、損傷部分を叩打すると、他の部位より上記と類似した過敏な反応を示すことに着目したもので、手根管症候群や肘の内側の尺骨神経の障害におけるTinelサインはこちらに相当します。日本の末梢神経の専門家は以前後者をTinel様サインと分けていましたが、だんだんその境界がなくなってきて、現在ではこれも一緒にされてしまっています(現在ではTinelサインとTinel様サインも、あまり区別されていません)。

 Tinel signがどの程度損傷神経の部位診断に信頼の置けるものかどうか、日本ではきちんとしたdataはないと思います。

 乙B12の文献は、Tinel signはあまり信頼性がおけないという趣旨の論文ですが、この論文が掲載されているJournal of Hand Surgery(Am)は手の外科・末梢神経領域の臨床医学雑i誌では最も権威の高い雑i誌のひとつで、どこかの教科書に書いてあるというものより、学問的にはずっと信頼性が高いものです(余談ですが、自分もよく教科書のたぐいを書かされますが、あれは孫引きが多く、エビデンスが低いものと思っており、裁判などでしばしば使われるのは妙に感じます)。

 すなわち乙B12("Intra-and Inter-Examiner Variability in Perfoming Tinel's Test"←望月が追加)の文献は、Tinel signは施術者によってその叩打の強さ、器具使用の有無等の手法がまちまちで統一されていないということが書かれており、また場合によっては健常な神経を叩打しても、これをTinel signと誤って解釈される恐れがあるという点で、私もこの論文の趣旨には同様の見解です。

 手根管症候群は上の二番目に書いたような圧迫神経障害ですので、正確にいうと本件の状況とは異なりますが、本件で問題とされている正中神経障害の証拠としてのTinelサインは回復部位を示しているわけではないので、広い意味ではこの範疇に入れても良いと思います。但し、この論文にもあるように、Tlnelサインらしきものがあるからといって、その部位の神経が明らかに障害されている確証にはならないというのが、一般的な考え方です。

 この乙B12には、「多数の近時の研究はCTSの診断におけるチネル徴候の有用性が乏しいことを報告している。報告されている感度(注:実際に神経損傷がある症例を、チネルテストで感知し得る確率)は44%〜79%であり特異度(注:チネルテストで感知した事例のうち、実際に神経損傷がある確率)は68〜94%である。このため、多くの研究者達はCTSに対する他の臨床試験である、手根管圧迫テスト、圧迫刺激テスト、手徴候ダイヤグラム等の方を支持している」との記載については、数値には確信はありませんが(日本ではもっと低いのではないかと思います)、一般的には大体その通りだと認識されていると思います。

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手根管症候群のティネル徴候の信用性を引き合いにして、外傷性末梢神経損傷のティネル徴候の信用性も低いとの意見を述べている医師の法廷でのやりとりも追加しました(7月19日追加)。
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【質問:被告代理人】チネル試験についてちょっとお聞きしますが、陳述書にチネル試験について感度と特異度というようなことが書かれていて、いちいち示しませんけれども、アメリカの文献が出ていて、感度は44から79%、それから特異度は68から94%であるという文献に対して、証人は、日本ではもっとそれよりも低いのではないかと、確信はありませんが一般的にはというようなことが書いてますが、改めてチネル試験についての信用性というのは、先生はどのように考えますか。
【回答】チネルサインというのは、末梢神経が損傷されたときに、その神経の走行に沿ってたたくと、ビリビリするということを言ってるんですけれども、あくまでも患者さんの訴えを医者がインタビューして、サインがある、なしと書いてありますので、定量的なデータではありません。ですから、非常に主観も入りますので、もともと余り確かなものではない。私が記憶している限り、日本ではそのチネルサインの特異性などに関して詳細なデータを出してはいないんではないかなと思います。

【質問:原告代理人】先生もチネル徴候をとっておりますし、先生がとったのはティングリングという表現になりますけれども、M先生もチネル徴候は神経損傷を判断する上で重要な要素であるというご意見なんですが、先生はちょっと先ほどそれと違うようなことをおっしゃったように聞いたのですが。
【回答】もちろん非常に関連する重要な診察所見の1つなんですけれども、あるから障害がある、チネル徴候がないから損傷がないというふうに断言できるものではないということを先ほど述べました。

【質問:原告代理人】 要するにいろんな症状を評価していくんだから、チネル徴候一本というのは危ないよと、こういう意味ですか。
【回答】はい、そうです。

【質問:原告代理人】それから、先生が先ほど紹介しておられましたチネル徴候の信用性がというとこの論文は、あれは神経損傷についての検討された論文でしたか。
【回答】あれは手根管症候群に関してです。

【質問:原告代理人】そうですね。手根管症候群をチネル徴候だけで判断するのはいかなるものかという趣旨の論文ですよね。
【回答】はい。

【質問:原告代理人】神経損傷について、チネル徴候について感受性がとか、そういう論文は、先生はご覧になったことはございますか。
【回答】すみません。余り具体的な数字が出ているものは、存じ上げておりません。





posted by koichi | 17:25 | 医療 | comments(0) | trackbacks(0) |
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