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@虎ノ門協同法律事務所
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プールでの事故予防と紛争を深刻化させないための対策
 京都新聞は、2015年6月10日、京都市教育委員会が、全市立小学校166校のプールに録画用カメラを設置したことを報じた。

 京都市立小学校で2012年7月に1年の女児がプールで死亡した事故の第三者委員会が、事故が発生した場合に備えて、事実関係を明らかにするために、カメラの設置・録画を求めていたことを受けての対応。予算は1200万円。

 京都市の運用方法は次のとおりである。

(1) 通常の体育の授業では作動させず、事故時のような夏休みの水泳指導日に録画する。

(2) 夏休み中にある地域への開放日も協力を呼び掛けて録画する。

(3) 事故がなければ映像はその日のうちに消去する。

 交通事故における事故原因をめぐる紛争を回避する目的で自動車にドライブレコーダーを設置する例が増加しているが、基本的に同じ発想である。事故が生じた「後」に事実関係を確定するためには有効だろう。

 しかし、通常の体育の授業でも溺水の可能性はあるし、授業外で市や府の大会に出場するためにスタートの練習もする場合の事故の態様の解明は必要ないと考えているのか。

 京都市はどのような理由から(1)の運用に限定したのかは報道からは不明であり、結論としては賛同できない。さらに学校での事故はプールだけでは無い。校舎内、体育館、グランドなどはどのような検討がされたのであろうか?

 市議会では、「録画されることは、子どもや教員の負担になるのではないか」との指摘があったことも報道されている。

 撮影されていることについては、利用者やその保護者に事前に告知すること、(3)の運用に加えて消去するまでの録画データの管理方法(映像を見ることができる人を限定する、録画データの不正利用などの予防)が十分であれば、この点は問題ないであろう。

 事故が生じた後に紛争を深刻化させないことも重要である。しかし、この点は、優先順位から言えば3番目の課題であり、第1に事故の発生を予防する、第2に事故が発生しても死亡や後遺障害を残さないように対策するという点が考慮されなければならない。

 新聞報道だけでは、第1の点や第2の点にどのような措置が講じられたのか不明だが、これらの点が置き去りにされていないか心配してしまう。

 プール事故は、判例上では9割が溺れる事故か飛び込み事故である。

 文部科学省と国土交通省は2007年3月、「プールの安全標準指針」を公表した。そこでは、「監視員及び救護員」の項で次のとおり述べられている。

・ 遊泳目的で利用するプールにおいては、監視員及び救護員の配置は、施設の規模、曜日や時間帯によって変わる利用者数等に応じて適切に決定することが必要である。また、監視員の集中力を持続させるために休憩時間の確保についても考慮することが望ましい。

・ 監視設備(監視台)は、施設の規模、プール槽の形状等により必要に応じて、プール全体が容易に見渡せる位置に相当数を設けることが望ましい。

・ 飛び込み事故、溺水事故、排(環)水口における吸い込み事故、プールサイドでの転倒事故等、プール内での事故を防止するため、各施設の設置目的や利用実態等に応じて禁止事項を定め、利用者に対し周知を行うとともに、監視員等は違反者に対し適切な指導を行うことが必要である。


 小学校でよく見られる、長水路が25m、5〜6コース(幅12〜15m)、水深1.0〜1.2mのプールを夏休み中に一般開放して小学生が30〜50人程度が利用する場合を前提として、みなさんはプール管理者から次の質問があったらどのように答えますか?

(1) 「監視員及び救護員」は何人必要?

(2) 「監視員の集中力を持続させる」ために、連続する監視時間は?休憩時間は?監視員一人の一日の総監視時間は?

(3) このプールでは「監視台」は必要?必要とするならばどこに何台の監視台を設置する?監視台の高さは?

(4) このプールでは飛び込みを禁止すべき?全面的には飛び込みを許さないとしても、競泳のスタートの練習もしたいという希望に応えるために、部分的に許可するならば、どのような条件が必要?

 これらの質問に対して、エビデンス(根拠)を示して回答できる人がどれだけいるだろうか?

 「安全に注意しよう」では事故は予防できない。事故予防のための行為規範は具体的でなければ意味がない。

 溺れるだけではすぐに死亡はしない。溺れても早期に発見して、救命措置を講じることで死亡や重大な結果を回避できる。日本水泳連盟は、「ジャスト4ミニッツ」という。溺れてから4分以内に発見して救命措置を講じることで、溺れても多くは救命可能である。

 溺れる人を早期に発見するためには何が必要かについて、国が大学などの研究機関に委託して具体的なガイドラインを作成することが必要である。

 魚釣りをする人ならば経験上知っていることだが、水面では光の反射があるので、水面とできるだけ大きな角度(プールで言えば監視台などの高い場所から)で、反射を押さえる偏光グラスを使用しなければ水中の状態は見えにくい。

 このような点で、開放プールの監視に必要なグッズも検討が必要である。京都市では、監視カメラに偏光グラスを加えるという検討もされたのであろうか?

 1960年代前半までに設置されたプールの多くがA〜Cの構造である(文部省「水泳プール建設と管理の手引」59頁、第38図、1966年)。スタート台からの飛び込み事故を防止する点ではAないしCの構造の方が優れているのに、なぜ、文部省は、「手引き」でDの構造を推奨したのだろうか。現在ではほとんどのプールがDの構造となっている。

 
 答は、「経済性が優先されている」というのが理由。

 「手引き」の入手はほぼ不可能である。日本水泳連盟編「水泳コーチ教本(第3版),2014年」464頁に「手引き」が引用されているので、興味のある人はこちらに。

 今年も、プールシーズン。犠牲者がでないことを願っている。
posted by koichi | 14:07 | スポーツ | comments(0) | trackbacks(0) |
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