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@パークス法律事務所
先生 あなたの学校は大丈夫? 第1回 安全にサッカーゴールを移動するには?

 学校の現場でスポーツ事故が起こったときに対応はこの二つ。

 

○ 一つは、スポーツで事故は避けられない⇒恐れずにやり続けよう⇒事故を繰り返し、死亡や重大な後遺障害を残す子どもを生じる

 

○ もう一つは、そんな危ないことをしていたの⇒もうやめちゃおう⇒事故は繰り返さないが、子ども運動能力・危険回避能力を低下させる

 

 こんな智恵のない対応はやめませんか?

 

 シリーズで考えましょう。

 

 第1回 安全にサッカーゴールを移動するには?

 

 サッカーゴールの転倒事故を防ぐことは重要だということは御存じだと思いますが、次の質問に答えられますか?

 

 あなたの学校のサッカーゴールの重さは? それ以前に、ゴールの素材がアルミか鉄か、知ってますか?

 

 一人で重すぎるものを持ちきれないということは常識でわかるけれども、サッカーゴールの重量がわからなければ、「中学3年生男子をしてサッカーゴールを安全に運ばせるには何人の生徒が必要ですか?」との質問に答えようがないですよね。

 

 ということは、この質問に答えられなかった学校の先生やスポーツ指導者の方が、子どもにサッカーゴールを運ばせるということは、危ういこと、安全かどうか誰もわからないことをさせているということになります。

 

 それでは、サッカーゴールの重さを知っていると答えた方に質問しましょう。

 

 2004年に強風で中学校のサッカーゴールが倒れて、2年生の生徒が死亡し、その後校長先生が自殺したという悲しい事件が起こった清水第六中学校のサッカーゴールは、鉄製で重量345kg(幅7.5m 高さ2.5m 奥行き1.9m)でした。
      ⇒事故の詳細はNPO法人Safe Kids Japanのホームページに

 

 このサッカーゴールを「中学3年生男子をしてサッカーゴールを安全に運ばせるには何人の生徒が必要ですか?」

 

(1)  一人で重すぎるものを持ちきれないということは常識でわかる。
(2)  サッカーゴールの重量もわかった。
(3)  次は、一人で安全に持ち上げる重さの限界がわからないといけない。

 

 3つ目の点は、
第1に、重量物を扱うことで子どもの健康を害さないという目的で、一人にかかる負荷の最大値という点からの限界、
第2に、何人かが転倒したりしても、転倒した子どものところにサッカーゴールが落ちたりしないようにするための余裕=「安全係数」という点からの限界、
を考えなければなりません。

 

 みなさんは答えられますか。

 

 残念ながら私も、具体的なエビデンス(根拠)を持ち合わせていないので、答は持っていません。

 

 ただ、仕事(労働)として、「中学3年生男子にサッカーゴールを安全に運ぶには何人の生徒が必要ですか?」という質問なら、どこから「違法となるか」という範囲では答えることは可能です(前提として労働基準法第56条第2項の児童労働の許可が必要ですが)。

 

 使用者は18歳未満の者重量物取り扱いをさせていはならないとしており(労働基準法第62条)、16歳未満の場合で断続作業は、男性15kg、女性12kg以上の作業が重量物取り扱い作業に該当すると定められています(年少者労働基準規則第7条)。

 

 ですから、中学3年生男子に345kgのサッカーゴールを運搬するには、全ての子どもに均等に荷重がかかると仮定しても、23人では一人15kg(345kg÷23人=15kg)となってしまいますから、重すぎるとして違法になります。

 

 実際には、一人あたりにかかる荷重はバラツキが生じるでしょうから、適法に運べる人数ということであれば、バラツキの程度を考慮して24人でも足りず、さらに人数を増やす必要があります。

 

 これは、重量物を持ち上げる限界という点からの規制です。

 

 何人かが転んでも下敷きになる事故を防ぐことが可能かという視点からですと、さらに人数を増やしておく必要があります。

 

 労働安全衛生であれば、基準があるのですが、学校での授業ということでは全くガイドラインがないのです。

 

 国は、「教員等が指導した上で、安全に移動させることが可能な人数を集める」(文部科学省「学校施設における事故防止の留意点について」2009年3月)としていますが、学校の先生はどうしたら「安全に移動させることが可能な人数」を判断できるのでしょうか?だれか答えられる方はいらっしゃいますか?

 

 学校の現場に「やれないこと」を「やれ」と言っているのではないでしょうか?

 

 ここに学校における安全対策の根本的な欠陥があるというのが、一般社団法人日本スポーツ法支援・研究センター、NPO法人Safe Kids Japan などが企画した「これで防げる学校体育・スポーツ事故 繰り返されるサッカーゴール転倒事故・組体操事故・ムカデ競走事故から子どもをまもる」(2017年8月27日実施)で提起されています。今後スポーツ庁や日本スポーツ振興センターがガイドラインを作ってくれると期待しています。

 

 現在はまだ十分なエビデンスも科学的な検証に耐えるガイドラインもありません。

 

 それまでは、サッカーゴールを移動しないという選択肢をとることはできないでしょうから、当面の暫定的な対応としては、学校においても労働安全衛生の基準は最低でもクリアすることをお勧めします。

posted by koichi | 12:08 | スポーツ外傷・障害 | comments(0) | trackbacks(0) |